ラフマニノフ:パガニーニラプソディー
>> 新しい感性を感じさせてくれる名録音
ペーテル・ヤブロンスキーはいかにも新しい演奏家的キャリアの持ち主で、元来はジャズ・ドラムの名手として名を馳せたそうである。しかし、私たちがその名を聞き及ぶ様になったのはピアニストとして、である。複数の楽器を奏することはよくあるが、ジャンルと楽器を同時に軽やかに飛び越えるあたりに新しいフットワークを感じるし、その感性を享受できれば、と思ったりもする。
そんなヤブロンスキーの才を見出して、ここで指揮棒をとっているがやはり名ピアニストでもあるアシュケナージである。私たちはまたここにおいてもアシュケナージに感謝しなくてはいけない。これほどの才能を、録音を通じて私たちに教え、そして楽しませてくれたのだから。
ここに収められた3曲はいずれも近代の息吹とともにロマン派の要素も持っている作品で、それを清冽なヤブロンスキーの感性が奏でていくのは心地よい。この演奏がジャズっぽいのかどうかは簡単に言ってしまえるわけではないが、特徴としては必要以上に物語を作らない演奏と思える。刹那的なスリルがあり、即興的な感興があるが、それらを統御統制し、音楽としての転結を結ぶという基本的な作用も大切にしている。だから、感性だけで押しきった演奏というわけでもない。アカデミックな雰囲気も持っている。もちろん、経験の深いアシュケナージのアドヴァイスもあり、入念な打ち合わせがあったことは想像に難くないが、見事なアルバムに仕上がっている。
構成の点で面白いのはラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」の直後にルトスワフスキの「パガニーニの主題による変奏曲」を配置したことだ。両曲とも同じパガニーニの主題を題材にしているし、ならべて聴くと、なんだか第1部と第2部を連即して聴くような面白みがある。ショスタコーヴィチの名品も独奏者、オケともに存分の出来で、当曲の多くの録音でもベストを争う内容といって間違いない。91年の録音であるが、当時の最高水準のデッカの録音技術には、他のレーベルが今なお追いついていないと思う。
>> ショスタコ・コンチェルトのベスト盤
現在のヤブロンスキーの活躍については、寡聞にして知らないが、本ディスクの切れ味のよいタッチは秀逸だ。神戸市民会館で実演に接したことがあるが、とにかく男前。まあ、それはどうでもよい。ここではショスタコヴィッチのコンチェルトに触れたい。
アルゲリッチやキーシンほか多くのピアニストが取り上げる作品であるが、ヤブロンスキーが最も素晴らしい。ジャズやドラムスなどもこなすらしい才人のヤブロンスキーだからか、多分にジャジーなこの作品の皮肉や詩情がこれだけ繊細にかつ真正面から捉えられた演奏も少ない。昨年作曲者自身のピアノによる自作自演盤(輸入盤)が登場、さすがにこれはヤブロンスキー以上の演奏だと思われたが、録音も含めてヤブロンスキーのほうに軍配を挙げよう。
バックのアシュケナージの演奏も安定しており、高級感がある(録音のお陰かも知れない)。N響での評判は今ひとつのような気もするが、アシュケナージは指揮者として優秀であることが確認できる。
ガーシュインのピアノコンチェルトでもこのコンビで名演を聴かせてくれていた。
ショスタコ・イヤーの昨年は、全集物などモーツアルト以上の収穫があったと思われるが、こういう名盤が忘れられていては困る。
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